自信がないあなたへ:自己肯定感を育みながらアサーティブネスを身につける方法
自信がなくてもアサーティブネスは始められる
「NO」と言えないことで、毎日が少しずつ息苦しくなっていると感じるかもしれません。誰かの依頼を断れず、自分の時間や心身の余裕が失われていく中で、「もっとうまく断れたら」「自分の意見を言えたら」と思うこともあるでしょう。しかし、同時に「自分にはそんな自信がない」「どうせうまくいかない」と感じ、行動に移せない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
アサーティブネス、つまり相手も自分も大切にする自己表現は、自己肯定感が高い人が行うものだと思われがちです。しかし、実はそうではありません。アサーティブネスを実践するプロセスそのものが、自己肯定感を育むことにつながるのです。
このコラムでは、自信がないと感じている方が、自己肯定感を育みながらアサーティブネスを日常生活に取り入れるための具体的なステップをご紹介します。完璧を目指さず、小さな一歩から始めることの重要性をお伝えしますので、ぜひお読みください。
なぜ自信がないとアサーティブネスが難しく感じるのか
自信がないと感じる時、私たちは自分の価値や能力を低く見積もりがちです。そのため、自分の意見や要求を主張することに強い抵抗を感じます。具体的には、以下のような心理が働くことが多いです。
- 失敗への恐れ: うまく伝えられなかったらどうしよう、という不安が強く、行動をためらってしまいます。
- 否定されることへの不安: 自分の意見を言った結果、相手に否定されたり、関係が悪化したりすることを極端に恐れます。これは、自己価値が他者からの評価に依存しやすい状態とも言えます。
- 完璧主義の傾向: 「アサーティブに伝えるなら、完璧な言い方をしなければならない」と考え、そのハードルの高さから最初から諦めてしまいます。
- 自分には価値がないという思い込み: 自分の時間や感情よりも、他者の要望の方が重要だと無意識に感じてしまい、結果として自分を後回しにしてしまいます。
これらの心理は、「NO」と言えないことの根本にある自己肯定感の低さと深く結びついています。しかし、この状態から抜け出すためには、まず「自信がない自分でもできることから始める」という視点が重要です。
自己肯定感が低い状態から始めるアサーティブネスの考え方
自信がない状態でアサーティブネスを始める上で、最も大切なのは「完璧を目指さない」という考え方です。アサーティブネスは、特定のフレーズを覚えることや、常に完璧に自分の意見を伝えることではありません。それは、自分の感情、考え、権利を認め、それを相手に敬意を払いながら率直に伝える「プロセス」であり、練習によって身につくスキルです。
- まずは「小さなYES/NO」から: いきなり重要な依頼を断る必要はありません。日常の小さな選択、例えば「ランチはどのお店に行きたい?」と聞かれた時に自分の希望を伝えてみる、「〇〇についてどう思う?」と聞かれて簡単な感想を述べてみる、といった練習から始めましょう。
- 結果よりプロセスを重視: うまく伝えられなかったと感じても、自分なりに伝えようとしたプロセス自体を評価してください。一度で成功しなくても、何度も練習するうちに必ず上達します。
- 自分を責めない: アサーティブネスの実践は、自分と向き合う作業でもあります。できなかった時に自分を責めるのではなく、「今回は難しかったな、次はこうしてみよう」と前向きに捉えることが大切です。
- アサーティブネスは自己肯定感を育む手段: アサーティブネスを実践し、自分の意見が少しでも尊重されたり、自分の時間を守れたりする経験は、小さな成功体験となり、自己肯定感を高める糧となります。自己肯定感を高めてからアサーティブになるのではなく、アサーティブな行動を通して自己肯定感を育むことができるのです。
自信がない人でもできる具体的な実践ステップ
ここでは、自信がないと感じている方でも取り組みやすい、具体的なアサーティブネスの実践ステップをご紹介します。
ステップ1:自分の感情や考えを「認識する」練習
まず、自分が今どう感じているのか、どうしたいのかを意識することから始めます。依頼をされた時や意見を求められた時、その瞬間に「私はどう感じている?」「私はどうしたい?」と心の中で問いかけてみてください。すぐに答えが出なくても構いません。自分の内面に意識を向ける習慣をつけましょう。これは、自分の感情や考えを客観的に捉える第一歩です。
ステップ2:「小さな選択や意見表明」から始める
日常生活の些細な場面で、自分の希望や意見を口に出す練習をします。 * カフェで飲み物を注文する際に、迷わず自分の飲みたいものを伝える。 * 同僚との雑談で、今日の天気について簡単な感想を述べる。 * グループでの食事の際に、自分の食べたいものを提案してみる。 これらの小さな「YES」「NO」「〇〇したい」の表明は、自信がなくても比較的挑戦しやすいはずです。
ステップ3:感謝や肯定的な「YES」をアサーティブに伝える練習
断る練習よりも、まずは感謝や肯定的な意思をしっかり伝える練習も有効です。「ありがとう、とても助かります」「はい、ぜひ喜んでお受けします」のように、曖昧にせず、自分の気持ちを込めて伝えてみましょう。ポジティブなメッセージをアサーティブに伝えることは、自己表現の基礎体力を養います。
ステップ4:「やんわりとしたNO」や保留を使う練習
いきなり直接的な「できません」と言うのが難しければ、「今は少し手一杯で、すぐにできるか分からないのですが」「〇〇の状況を確認してからお返事してもよろしいでしょうか?」のように、断定を避けつつ、自分の状況を伝えたり、判断を保留したりする表現を使ってみましょう。クッション言葉を活用するのも有効です。(例:「お声がけいただきありがとうございます。ただ、今は別の件で手がいっぱいでして…」)
ステップ5:記録をつける
アサーティブな行動を試みた際に、「どんな状況だったか」「どう伝えたか」「その後どうなったか」「自分はどう感じたか」などを簡単に記録しておくと良いでしょう。成功体験だけでなく、「今回はうまくいかなかったけど、次は〇〇を意識してみよう」といった気づきも記録します。これにより、自分の進歩を実感でき、次へのモチベーションにつながります。
自己肯定感を「育む」ための並行ステップ
アサーティブネスの実践と並行して、自己肯定感を育むための意識も持ちましょう。
- 「できたこと」に焦点を当てる: 目標達成度だけでなく、小さな行動や努力、試みそのものを認め、自分を褒めてください。「今日は自分の気持ちに気づく練習ができた」「保留してみることができた」といった小さな成功を積み重ねることが重要です。
- 自分へのダメ出しを減らす: 否定的なセルフトーク(自分への内なる批判)に気づき、それを肯定的な言葉や、事実に基づいた客観的な言葉に置き換える練習をします。
- 休息をしっかり取る: 心身が疲弊していると、自分の限界を守るための「NO」を言うエネルギーもなくなります。意識的に休息を取り、自分を労わる時間を作りましょう。自分を大切にする行動は、自己肯定感を高めます。
- 小さな目標設定と達成: アサーティブネスの実践以外でも、日常生活で達成可能な小さな目標を設定し、クリアしていくことも自信につながります。
完璧でなくていい、自分らしい一歩を踏み出そう
自己肯定感が低いと感じる状態からアサーティブネスを始めることは、簡単なことではないかもしれません。しかし、それは決して不可能ではありません。完璧な自己表現を目指すのではなく、今の自分にできる小さな一歩から始めることが大切です。
アサーティブネスを身につけることは、あなたの時間、エネルギー、そして心の平穏を守るための重要なスキルです。そして、その実践は、あなたがあなた自身の価値を認め、自分を大切にすることにつながり、結果として自己肯定感を育んでいきます。
焦らず、一つずつ、自分らしいペースで取り組んでみてください。あなたの小さな一歩が、より心地よい人間関係と、自分らしい生き方へと繋がっていくことを願っています。